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「日の名残り」カズオ・イシグロ

語り手は執事。執事らしく抑制された口調で過去を語る。それは主にまだ貴族階級が国際政治に関わっていた最後の時代のこと。使えていた主人のこと、共に働いていた女中頭とのこと、執事の持つべき「気品」のこと。休暇の旅のなかでそういう事どもを回想していく。そこには自らのロマンスの香りさえ漂ってくる。節度ある執事として振る舞って来たが故にそれらはロマンスになり得なかった。執事は語りの中でそれをよしとしようとしている。しかし言外には幾ばくかの、いや大層な悔恨が表れているようにもみえる。

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雑感

「私を離さないで」カズオ・イシグロ

一人の話者が淡々と現在に至る経緯を語る。それは話者に関わる人と人と間の機微の歴史で埋め尽くされている。一見それはどこにでもみられるような光景の連続であるようにも見える。しかし、その世界にはどこか違和感のようなものが終始つきまとう。話が進むにつれその違和感をもたらすものが姿を表してくる。読者がそれに気づいた時もう一度冒頭の部分を読み返すといい。この話者は最初から特殊な世界を語っていたのだとわかるから。

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「悪女について」有吉佐和子

「悪女」富小路公子について27人の関係者へのインタビューのみで構成される。27人の人間模様によって映し出される人物がはたして「悪女」なのか傑物なのか。語られない部分、謎の部分を残すことで立ち上がってくる実在感もある。